愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第18回】鈴木 照美 先生
「保護者の方に「子どもの持ち物」についてお願いしたときのこと…」

パート1 〜遠足の巻〜

春の遠足は子どもにとって楽しみな行事です。幼稚園に入って間もないころで、「遠足♪」という言葉の響きに親も子も期待いっぱいドキドキわくわくの行事です。
 もちろん、ほとんどの保護者の方が若いころに遠足の経験はありますので、遠足の意味を説明する必要はありません。一応、持ち物については詳細を印刷してお渡しすることにし、「なんて丁寧な対応…」と自己満足しておりました。

保護者の方へ

遠足に行きますので次のものを用意してすべてのものに記名し、子どもに持たせてください。

  • リュック(開閉が自分でできるもの)
  • 敷物(60センチ角程度の子どもが自分で扱える大きさのもの)
  • 弁当
  • ぬれタオルをビニル袋に入れたもの(袋にも記名)
  • 水筒

完璧! 完璧! 完璧ではありませんか!
 当日、どの子もみんなリュックを背負い、水筒をたすき掛けにして忘れ物もなく時間通りに集合することができました。
 さて、電車に乗って目的地へ。トイレ休憩もはさんで、小休憩。暑い日でしたのでお茶タイムです。木陰に入って「お茶、飲んでいいよ〜」の声に、「わ〜い!」と、かわいい歓声が上がります。
 さて、ここにきて浮かない顔の子が一人。
 「どうしたの?」
 「お茶、ない…」
 「えっ? その水筒に入ってるでしょ」
 「入ってない」
 「えっ、だってまだ飲んでないでしょ」
 「・・・・・・」
 「こぼれてないし、おかしいなあ」
 「お母さん、入れてくれなかった…」
 「ん???? 水筒だけもってきたの?」
 「うん、お茶は入ってない」
 「うひょ〜〜〜〜、しかたない。じゃ、先生の飲む?」
 「うん」
 こうして、暑い暑い春の日の遠足に、私の水源は断たれたのでありました。

 園に帰り、迎えに来たお母さんに、
 「お母さん、今日水筒にお茶が入ってなかったようなんで、私のお茶を飲んでもらいました」
 「(びっくりした様子で)えっ? お茶持っていくんだったんですか?」
 「は? 水筒はお持ちいただいたのですがお茶が入っていなかったもので…」
 「お知らせに水筒って書いてあったんで、お茶は家から入れて歩くと重いので、園についてから水筒に入れていただけるものと思っていました」
 「…そ、そうですか。水筒とお茶って書いておけばよかったですね(苦笑い)」

パート2 〜絵本袋の巻〜

これは幸いなことに私の隣の組の先生の身に降りかかった出来事です。
 幼稚園ではいろいろな手作りのグッズを保護者の方に作ってもらうよう依頼します。お子さんがお母さんの手作りのものを使って嬉しくなるように、また、子どもにちょうど良い使い勝手のものを持たせることができるように願って、いろいろな袋を作ってもらいます。
 そして、その中に「絵本袋」という丈夫な袋の依頼もあります。

 「子どもたちが週末に絵本や着替え、洗う靴などを入れて持ち運ぶのに便利な絵本袋を作ってください。サイズは28センチ×38センチ程度で、出し入れがしやすいようにマチをつけてください。あまりフニャフニャした布製では入れにくいので、しゃんとした厚手のものでお願いします」

 と、お願いしました。
 続々と出来上がった人から子どもに持たせてかわいい絵本袋が集まってきます。愛情のこもった手作りの模様やマークが付いており、マイバックという個性が浮き彫りになっていて、どの子もとても嬉しそうでした。
そのなかに、ひときわ異彩を放つ絵本袋がありました。

「Sちゃん、これ、絵本袋だよね、いいね、誰が作ってくれたの?」
 「とうちゃん! とうちゃんが作ってくれた」
 「そう、よかったねぇ。・・・・・・・」
 なんと、寸法ぴったりのブリキ板をハンダ付けしてできた、マチも付いている大変に豪華な絵本袋でした。(たしかに厚手、しゃんとした、マチ付き・・・云々。お願いしたとおりの絵本袋の条件に当てはまります。)

 こういう出来事があってからは、私が出す連絡用文書にはこれでもか!と言うくらいくどい言い回しが多くなりました。もちろん、主任からは削除の赤ペンがいっぱい入るようになりました。

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(2008年6月2日)

失敗から学ぶ

●鈴木 照美
(すずき・てるみ)

昭和52年、幼稚園教諭として教員生活スタート。平成14年度まではこの道一筋で26年。(内、主任9年、園長2年)平成15年度より愛知県教育委員会義務教育課主査(今年で5年目)。専門は幼児教育。大学時代には人形劇団に所属。もの心ついたころからずっとダイエットを目指しているが、「明日からにしちゃお!」と、お気楽にふくよかな人生を歩み続けている。