愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第14回】山内 良仁 先生
「『ため息ばかりつかないでください』という一言」

教師をやっていると、生徒に教えられることがよくあります。ずいぶん前の話ですが、生徒に教えてもらったことを紹介します。
 若い頃の私は、何か取り柄があるわけではありませんが、とにかく目の前のことに一生懸命取り組む教師でした。だから、まわりのことが見えなくなってしまうことも、あったのでしょう。そんな話です。

 ある年に担任をした学級は、とにかく個性豊かな生徒が集まっていました。担任として、かなり気合いを入れて、スタートしたことを覚えています。根は優しいのですが、元気がよく問題を起こす生徒、いたずらが過ぎてまわりの生徒に迷惑をかけてしまう生徒。そんな生徒に、振り回されつつも、目をかけることを忘れず、毎日のように指導していました。
 一方で、欠席がちな生徒が何人かいて、1学期が終わる頃には、教室にいつも3つ、4つと空席があるようになりました。何とかしてあげたいと思い、それぞれの家庭を入れ替わり、毎日のように訪問し、本人や保護者と話をしました。例えば、本人や保護者から、校外学習の班について要望があれば、要望を叶えてやるように、学級の生徒に頼みました。 また、本当に優しく、信頼できるリーダーに恵まれた学級で、多くの生徒がよくがんばってくれました。そのおかげもあり、何とか無事毎日が過ぎたのです。

 ところが、2学期も半ば過ぎから、学級の様子が少しおかしくなり始めました。何かしら生徒の元気がなくなり、学級が暗い雰囲気になってきたのです。元気のよい生徒の問題行動やいたずらもエスカレートしていきました。それでも、とにかく、担任として毎日必死になってがんばっていました。
 そんなある日、信頼している女子生徒から、すごくまじめな顔で、「先生、ため息ばかりつかないでください。私たちもたいへんだけどがんばっているんです。」と言われたのです。この言葉は、本当に頭がグラッとくる言葉でした。

 元気のよい生徒や、欠席がちな生徒の対応に一生懸命になるあまり、自分自身余裕がなくなり、疲れ切ってしまっていたのです。それを、普通にがんばっている生徒に甘えて、生徒の前でため息ばかりつく担任になっていたのです。本当ならば一番大切にしなければならなかった生徒、何事もないようにしているけれど、実はたいへんな思いをしていた生徒が見えなくなっていたのです。それを、さぞかし言いにくかっただろうに、直接教えてくれた生徒がいたのです。しばらくは落ち込みましたが、本当にありがたいと思い、自分の視線を、学級全体に配るようにしました。

 当たり前のことですが、問題を起こしたり、困っていたりする生徒ばかりではなく、ごく普通に生活している生徒にも、目をかけ、手をかけ、同じように大切にしなければなりません。苦しくても、学級担任は一人なので、生徒の前では明るく振る舞うこと。学級の雰囲気は、たった一人の担任に大きく左右されるのです。

 生徒に教えてもらったこのことは、その後の学級経営に生かし、決して同じ過ちを犯さないように心がけました。あの時の学級の生徒の苦労に報い、勇気を持って、私に言ってくれた生徒に感謝して。

(2008年4月7日)

失敗から学ぶ

●山内 良仁
(やまうち・よしひと)

昭和59年、中学校教諭として教員生活スタート。その後、中学校の数学教師として20数年。特に何の取り柄があるわけでもないが、目の前にあることに熱中し、時々おかしな失敗をする。よき仲間に恵まれ、教員生活を続けている。