愛される学校づくり研究会

★このコラムは、ベテランの先生方によるリレー方式のコラムです。先輩教師として若い先生方に、「こんなことをしたらうまくいかなかった」といった失敗談を語っていただきます。

【第12回】武藤 寿彰 先生
「相手の思いを心で受け止めること」

もう何年も前のことです。クラスの生徒同士のトラブルがあり、保護者から相談というよりも、
 『相手の生徒に対して、学校として厳しく指導してください』
 といった依頼を受けました。トラブルの内容を詳しく書くことはできませんが、話を聞いていくと、学校として厳しく指導することがお互いにとってプラスにならない問題であることが見えてきました。それでも、学校としての対応を何度も迫る保護者。1時間ほどのやりとりの末、
 「こんなことで時間を取らせて・・・と先生は思っているのでしょうね。」
 という言葉を残して、保護者は帰っていきました。もちろんそれ以降、その保護者や生徒とは上手くいくはずもありません。

 今でも、その時の判断は間違っていたとは思えません。しかし、今ならもっと違った対応をしたことだろうと思います。
 それは、まず相手の思いを理解しようと「心」で話を聞くということです。

 保護者は、自分の子どものことを思い、トラブルを解消して欲しいという一心で学校に来られました。だから、解決の方法を示せばよいと、その時の自分は思ってしまったのです。どうすべきかを冷静に頭で判断して、結論を出していました。おそらくそこから後の保護者の話に対して、
「何でこんなことがわからないのか?」
 という傲慢な思いで聞いていたのだろうと思います。だから保護者は、
 「何でこの先生は、私のこの気持ちがわからないのか?」
 という思いで、何度も同じ話をして、それが伝わらないとわかると、自分に失望して帰っていったのだと思います。

 それ以来、できているかどうかは自信はありませんが、保護者や生徒、外部の方からの苦情に対して、まずはきちんと心で受け止めることを心掛けています。きちんと心で受け止めていることが相手に十分伝われば、同じ判断であっても、そこから先の展開は大きく変わるのではないかと思えるようになりました。人は、自分の思いをわかってくれている人の話は、案外素直に聞けるものです。

(2008年3月3日)

失敗から学ぶ

●武藤 寿彰
(むとう・としあき)

昭和60年教員生活をスタート。静岡市の公立中学校に勤務して23年。専門は数学。作図ツール・グラフ電卓等のICTを活用する数学の面白さと、生徒が問いを持ち追究する「生徒が数学する」数学の素晴らしさに魅了され、二つを融合させた授業を実践・開発している。2007年日本教育工学振興会会長賞を受賞。