愛される学校づくり研究会

『誰でも生きている途上にある。そして生きて来たという過去を持っている。まさに過去は変えられない集積である。考えてみると私達は未来の舵を取る特権を持っているように思えるが、かえって過去に左右されて舵を取っている事に気がつく』

【第7回】不登校生徒のこころの変化を追う(6)

「頼むべきものが何もない、誰もいない。どうにもならない。これは、最も面白くないことである」

Aは、2年生に進級してから、不登校の状態が顕著になってきた。4月はがんばって登校することができ、欠席も2日間だけだったが、5月の連休明けから連続して休むようになった。そして、親の登校刺激に対して、自分の部屋で荒れるようになったと母親から連絡があり、当分休ませたいとの親の希望が伝えられた。
 その後、家庭では落ち着いているが、「勉強がわからない」「学校が嫌い」という理由から登校できない状態が続いた。そのため級友や他の友人も休日に顔を出したり、朝、迎えに行くなど働きかけを続けた。そんなこともあってか1日だけ、午後からではあったが、笑顔で登校できた。しかし、その後は継続できなかった。
 母親とは電話の連絡や直接会って、状況確認を続けている。6月に初めてのカウンセリングを母親が受けることになった。カウンセリングの結果、現状の対応でよいとの判断を受け、多少母親の不安が解消されたように思われた。母親は、今後も継続してカウンセリングを受ける予定である。
 Aは相変わらず自宅では、落ち着いて生活していると連絡を受けている。遠足では、級友の呼びかけもあり参加することができた。
 その後は現状維持で、学習面での刺激を与えなければ、家庭では穏やかに安定して生活しているようである。担任は、家庭訪問は効果的でないという判断から、母親とは電話で状況確認を続けている。遠足に参加した後は、終業式に参加するまで登校することはなかった。
 終業式の日に、様子を聞くが落ち着いて話をすることができた。取り出し授業の件を打診してみたが、反応はなかった。

これは典型的な怠学傾向の不登校の事例である。Aの場合、その原因の多くは、「勉強がわからない」「学校が嫌い」にある。2学期になっても、不登校の状態は続いているわけであるが、1学期の末に母親がカウンセリングを受けたことをきっかけに、母親のAに対する対応に変化があったのか、「2学期になったら登校したい」と言うことを漏らしていたと聞いている。宣言通り、2学期になって数回登校する日があった。ただ登校する日は、体育大会の練習があって、授業がない日に偏っていた。
 本校では、“取り出し授業”という名で、別室で個人指導を行っている。Aも学力的には、現状の授業について行くことはできない。できればその“取り出し授業”に参加する勇気を持ってくれれば、不登校から脱出できるのではと思っている。
 

“スクール55”の初回のコラムで、『自尊心を守るための支援』『経験値を与えるための支援』について述べたが、Aの場合は、次の項目が当てはまるように思える。

『自尊心を守るための支援』

  • 「守られている」という実感を与えることも大切だと思われる。これには家庭の支援が欠かせないが、そういった実感を持てることで、ストレスフルな場面でも自暴自棄にならず、自己を保ち、努力を継続していくことができると期待できる。
  • 「勉強で遅れをとっている」ということは、本人も重々承知しているだろう。しかし、それを認めることは嫌う。認めてしまうと様々なことにかかわっていく勇気が出しにくくなってしまう。 
  • 「できる!」ということの積み重ねが大切。簡単な事柄でもいい、本人が進んでやっていこうとする学習計画・レベルの調整・管理。本人がやったことに対する何らかのレスポンスが重要。「今やっていることは意味があるんだ」という実感が持て、努力の継続・学習面での伸びが期待できる。

『経験値を与えるための支援』

  • 教室復帰を急がず、障害になっている壁を一つずつ取り除くこと。別室登校や別室授業などの配慮をしながら、その生徒にとって障害になっているものを排除する。復帰へ向けて十分時間をかけて、経験・シミュレーションを繰り返して復帰へ近づける。


 このことをふまえて、今後、担任および心の教室相談員やスクールカウンセラーと連携をとりながら今後ともAの支援に当たりたいと思っている。最後に、不登校生徒の支援に当たっては、下記に掲げる4つの項目をふまえる必要があることを再確認しておきたい。
 

※不登校生徒支援のための4アイテム

A:受容(居場所) まず「今」の自分を受け入れることから。受け入れてもらって、自己受容が可能となる
自分を受け入れてもらう→自分を受け入れる→他人を受け入れる→他人(集団)に受け入れてもらう
B:適応 集団や「学校」に適応できるための支援。無理しないで、自分で
C:学習 具体的な学習支援+勉強に対する思いのケア
D:進路情報 具体的あきらめから希望へ、具体的な情報

(2007年10月8日)

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●赤星 次夫
(あかほし・つぎお)

愛知県小牧市立光ヶ丘中学校教諭。保健体育科担当。保健指導主事。“詩人赤星” と言われるように、子どもたちに語りかける言葉からは美しい映像が浮かび、その言葉の持つ力に魅了される。またキリッとした口調は、子どもたちのからだにも心にも、心地よい緊張感を生み出す。いつも子どもの心に視点をおいた職員への呼びかけは、学校全体にピリッとした空気を作り出している。