愛される学校づくり研究会

『あなたがたの会った試練は、みな人のしらないようなものではありません。神は真実な方ですから、あなたがたを耐えることのできないような試練にあわせるようなことはなさいません。むしろ、耐えることのできるように、脱出の道も備えてくださいます』

【第6回】不登校生徒のこころの変化を追う(5)

「どんな困難な状況にあっても、解決策は必ずある。救いのない運命というものはない。災難に合わせて、どこか一方の扉を開けて、救いの道を残している」〜セルバンテス

昨年度から始めた不登校生徒を持つ親の会が、今年度も引き続き開催することとなった。今のところ新たなメンバーの参加はないが、スクールカウンセラーが新しい人になったこと、メンバーの立場が変わったことで、新たな気持ちで第1回目の会を持つことができました。卒業した生徒の親は、OBという立場で、いろいろお話をされていた。新しく見えたスクールカウンセラーも驚かれるくらい、話が弾んだようです。
 この会に参加をされていた家庭の生徒が2名学級復帰をすることができました。それぞれに、いろいろな条件やタイミングが重なって、学級復帰をすることができたわけですが、その母親の言葉が印象的でした。
 「皆さん心配しないで、その時期が来れば子どもは変わるよ。あせらないで」
 もちろん、ここまで来るには、幾多の問題に悩まされてきたわけであって、何もせずにじっと待っていたわけではないことは言うまでもありません。  今回幸運にも学級復帰できた大きな要因は、進級・進学という大きな場面の変化が、強く背中を押したことにあると思っています。進級や進学というワンチャンスを逃さないように、着々と準備を進めたことがいい結果につながったのだと思っています。

Aの場合、2年生までは、たとえ学校に来ることができなくても適応指導教室という安心できる場で学習やその他の経験を積むことができましたし、中学生である以上学校に所属しているという場の保障はありました。しかし、3年生にとっては卒業してしまうと所属する場がなくなってしまい、否が応でも次の所属場所を確保しなければなりません。それが進学先です。そのためには受験というハードルを越えなければならないし、そのハードルをクリアーするためには欠席するわけにはいけません。おそらくこのような心の動きもあり、2年生まで不登校だったAが3年生からは他の生徒と変わらないように学校生活を送ることができるようになったのではないかと思われます。
 Bの場合も、以前から「学級が変われば、登校できると思う。とにかく新しいクラスになれば…」と言い、後半になって別室で過ごす日も多くなり、教室ではないが学校にいる、そういう経験値を積み重ねながら4月を待ち、そして新しいクラスになると、普通に学級で過ごすことができるようになったのです。

とにかくこの二つの例は、たまたまと言ってしまえばそれまでですが、いろいろな手だてを講じ、いくつかの好条件を重ねることによってできた結果ではないかと思います。これからも、一人を救う努力と、新たな一人を出さない支援を続けないといけないと思っています。そして、不登校の子どもに関わる者にとっては、先の見えない不安を相対化し、目の前の努力を信じていくことが大切なことだと思います。
 また新たな一人を出さない支援の中で、家庭の在り方も問題になると思われます。子どもたちが心に不安を抱えることなく登校するためには、家庭・家族の安定も欠かせません。
 斎藤茂太氏は、その著書『「家庭力」を育てよう』のなかで家族は「共存する力」ではなく、「共存に耐える力」をつけなければならないと言われています。「家庭とは心が安らぐ場、癒しの場であると言ってもいい、これを育むのが家庭力だ。」と述べています。

よく今の子は恵まれているのに、と簡単にいいますが、それは大人の目から見て物質的に恵まれているだけで、その子が大切にされたり、自分を大切にしたり、という本当に大切なものに恵まれていないのかもしれません。大切にされた経験のない子どもがいることを忘れて、一方的に恵まれているとか甘えているとか決めつけることはできません。安定した家庭の中で、安心して子どもたちが生活していくことができれば、当然心に問題を持つ子どもも少なくなるはずです。子どもたちの心の問題を考えるとき、家庭・家族の在り方にも視点を当て考えていく必要性を強く感じています。
 親にせよ、教師にせよ、その使命は子どもを「一人前の大人」、一人の社会的存在に育てていくことなのですが、その本質を忘れ目先のことにとらわれすぎているのではないでしょうか。
 家族の一人として、私たちにできることは何よりも対象を抱擁することです。相手を抱きしめてから見つめ直すことです。生まれたばかりの赤ちゃんを、まるごと愛したように、身体を、皮膚を通して愛情を育み、共感することが大切です。一切の条件をつけずに、あるがままに認めて受け入れることが大切です。あふれる愛が子どもを心の闇から救い出してくれると信じます。

(2007年7月2日)

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●赤星 次夫
(あかほし・つぎお)

愛知県小牧市立光ヶ丘中学校教諭。保健体育科担当。保健指導主事。“詩人赤星” と言われるように、子どもたちに語りかける言葉からは美しい映像が浮かび、その言葉の持つ力に魅了される。またキリッとした口調は、子どもたちのからだにも心にも、心地よい緊張感を生み出す。いつも子どもの心に視点をおいた職員への呼びかけは、学校全体にピリッとした空気を作り出している。