★ありがたいことに再び「愛される学校づくり研究会」のコラムに連載させていただく機会を得た。教育学部の教員となったこともあって、36年間の公立校教諭と管理職の経験を踏まえて、自分なりの「教師論」を書かせていただくことにした。話題があちこちに飛ぶコラムとなるが、月1回おつきあいをいただければ幸いである。
【 第4回 】基本の授業技術で水準以上の授業ができる
本学(岐阜聖徳学園大学)の学生は、3年生の9月から11月にかけて、小学校実習4週間、中学校実習4週間の教育実習を行っています。この実習期間設定は、大学によって違います。例えば、3年生・秋に小学校で3週間、4年生・春に中学校で2週間の教育実習を行うなど、大学によって異なっています。
昨年度に大学教員となり、初めて本学の実習期間を知りました。実習受け入れ先の学校現場にいたことを度外視して見解を述べると、3年生で8週間の教育実習を行うシステムは、教員になるための学修としてはとても良いものだと思います。
昨年度のことです。小学校実習を終えて久しぶりに大学へ来たゼミ生の松井大樹君から、実習報告を受けました。何事も真摯に取り組む松井君ですから、実習先でも良い評価をいただけるだろうと思いながら、聞いていました。しかし、彼が「校長先生から、『明日から勤めてほしい』と言われました」と口にしたときには、思わず苦笑してしまいました。
「松井君、それはとても嬉しい褒め言葉だね。でもね、一生懸命やった君を思っての校長先生のヨイショだよ」
と、思わず返してしまいました。良い気分だったに違いない松井君には、水を差す言葉でしたが、2週間後には中学校実習が始まりますので、気を引き締めてほしいという思いもあっての言葉でした。
中学校実習が始まりました。中学校実習では、ゼミ生の授業はゼミ担当者が参観・指導することになっています。今日は松井君の研究授業日で、他のゼミ生同様に、楽しみに出かけました。
1年生の関数の授業でした。しばらく見ているうちに、以前、彼から聞いた校長先生の言葉「明日から勤めてほしい」を思い出したのです。
教育実習生とは思えない!実に授業がうまい!
こうした授業を目の当りにしたら、私も「明日から勤めてほしい」と言います。私はさっそく授業の記録を始めました。
中学校実習終了後、松井君に研究室に来てもらいました。興味があるのは、彼が片々の授業技術をどこで学んだかとういうことです。
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玉「野口芳宏先生がよくやられる〇×を取り入れていたね。あれはどこで学んだの」
松「ゼミで玉置先生に教えてもらったのですが、今一つ呑み込めませんでした。教師力アップセミナーで野口先生からお話を聞いて、よくわかりました」
玉「〇つけ法を使って、生徒一人ひとりを見て回るのは?」
松「ゼミで学びました」
玉「生徒の発言をうまくつないでいたね」
松「ゼミで学んだように思います」
玉「表を縦に見たら、今度は横に見ることが大切だ、と言ったね。あれは?」
松「先生の本で学びました」
玉「生徒がグラフを左上がりと言ったが、君はxの変化をもとに考えることが大切だから、右下がりと言った方がいいと説明したね。あれは?」
松「塾の講師をしているときに学んだように思います」
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授業記録をもとに、彼の学びをヒアリングしたのです。自分自身の今後の講義に生かしていきたいという考えからです。
授業がうまい!と思ったのは、要所要所で、適度に「野口流〇×」や「〇つけ法」を取り入れ、授業に締まりがあったからです。向山洋一先生による授業の原則でいえば「全員参加の原則」「個別評価の原則」がきっちり守られていたからです。
彼の授業を見て、あらためて思いました。授業経験がほとんどない学生でも、基本の授業技術を誠実に取り入れると、水準以上の授業ができるということです。
最後に彼に聞きました。中学校の校長先生は何と言われたのか、と。「今度の校長先生も、『明日から勤めてほしい』と言っていただけました」との返答。今度は、心の底から頷くことができました。
(2016年7月19日)