愛される学校づくり研究会

学校広報タイトル

★このコラムは、学校のホームページを中心とした学校広報の考え方について、15年以上学校サイトに関する研究を続けてきた国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の豊福晋平氏がわかりやすく解説します。

【 第3回 】プル型メディアの特徴を理解する

「印刷配布する学校だよりがあるのに、何故わざわざホームページが必要なのか」これは運用初期の学校からよく尋ねられる質問の筆頭ですが、お答えするには、プッシュ型・プル型というメディアの特性をまず理解していただく必要があります。今回は、学校側が扱い慣れていないプル型メディアの特徴について考えてみましょう。

プッシュ型メディアの特徴

私達の身の回りにあるメディアには、大雑把に区分してプッシュ型とプル型があります。このうち、比較的なじみ深いのは新聞やテレビ放送に代表されるマスメディアです。マスメディアはきわめて強力な媒体(メディア)を所有・駆使し、大衆(マス)に対して一方向的に情報伝達(プッシュ)することを特徴とします。

学校が普段保護者向けに発行する「学校だより」は、マスメディアとは違いますが、もっぱら制作側の意図や都合で作られ、読み手に一方的に伝えられるものなので、プッシュ型メディアのひとつと考えることができます。

いずれにせよ、プッシュ型メディアに共通するのは、圧倒的な情報伝達力です。放送や印刷といったテクノロジーを用いることで、一つのメッセージを数多くの人々に効率的に届けることが出来ます。ただし、一方で制作者側には何かしら物事を伝える意図があっても、受け取る側にその気がなければ受け流されてしまうという課題があります。また、プッシュ型メディアは基本的に大人数を相手にするメディアなので、発信するメッセージはどうしても「広く浅い」内容になってしまい、細かなニーズには応えられにくくなります。

プル型メディアの特徴

プッシュ型に対してプル型メディアは、インターネットのホームページに代表されます。特定のトピックに関心をもった閲覧者が検索やリンクを通じて、サイトのページから情報取得(プル)することを特徴とします。
 インターネットを用いたプル型メディアの特徴は、プッシュ型と比べて運用にかかるコストがきわめて安く、膨大な情報を蓄積しておく事が可能で、しかも、情報提供のタイミングに制限がないことです。

1点目のコストですが、たとえば、ホームページに遠足や運動会の写真を貼り付けてブログ記事を作成・公開するのに少々時間はかかっても、ほとんど費用はかかりませんが、同じ事をカラー印刷物の全戸配布で代替しようとすれば、高価なカラー印刷や配達のコストを見込まねばなりません。
 2点目の情報蓄積量について、印刷物の場合、紙面と枚数には物理的な限度がありますが、ホームページの場合は基本的に容量を気にする必要がありません。
 3点目の情報提供のタイミングですが、印刷物は印刷・配布に一定の時間と物理的なコストがかかるので、ある程度まとまった単位で情報提供をせざるを得ないわけですが、ホームページであれば、情報更新出来る環境にあればいつでも更新することが可能です。

プル型メディアは閲覧者側のメリットが大きい

プル型メディアは情報提供側だけでなく、情報の受け手(閲覧者)にとっても大きなメリットがあります。集会や印刷配布物といった従来の方法では十分ケア出来なかった保護者や学校関係者のニーズを満たすことができます。閲覧者側のおもなメリットとして3点指摘しておきましょう。

1点目は、プッシュ型メディアでは情報を届けきれない相手でも、関心がある人なら誰でも情報が得られるということです。
 いくら学校だよりが全保護者に配布され、近隣住民に回覧されていても、印刷物が閲覧される範囲はおのずと限定されてしまいますが、ホームページに記載されれば、もっといろいろな人に知ってもらうチャンスが増えます。たとえば、転勤が急に決まった遠隔地の保護者が子どもの学校探しをしなければならない場面を考えてみると、役所の概要情報や地図情報だけでは、学校の具体的情報はほとんど得ることができませんが、学校ホームページに日常的な情報が毎日のように掲載されていれば、離れた場所に居ても、学校の様子を身近に感じることができるでしょう。

2点目は、閲覧者側が必要とした時に、いつでも柔軟に情報が得られるということです。 印刷配布物の場合は、受け取った側がマメにファイリングしておかないと、過去にさかのぼって情報を探すのが困難になってしまいますが、ホームページに適切な形で掲載されていれば、どこからでも一発検索で情報を引き出すことが可能です。わざわざプリントを取りに自宅に戻らなくても、勤め先からでも調べることが出来ますし、帳票類や申請文書の類いも学校に行かずに参照できれば、手間を減らすことができるわけです(たとえば、インフルエンザ等で出席停止になっている時に登校許可書がホームページからダウンロード出来れば便利ですね)。

3点目は、閲覧者の興味関心を深掘り可能にするということです。 たとえば、教育計画・財務諸表といった文書が保護者に配られる事はまずありませんが、学校経営や学校評価のテーマを扱う場合には必要不可欠な資料です。これらの文書がホームページで公開されていることは、教育機関としてのアカウンタビリティ(説明責任)を果たす上でも重要です。
 学級・学年・部活動やPTA活動、あるいは、教科指導や校内研究といった領域についても同じことが言えます。つまり、全ての閲覧者にとっては必ずしも重要ではないが、ある閲覧者にとっては有益な詳細情報を掲載すれば、興味関心に応じた深い理解が得られるでしょう。

このように、プル型メディアは従来のプッシュ型メディアにはないメリットがあり、保護者をはじめとした閲覧者に対して、よりきめ細やかな対応することが可能になるわけです。

(2012年8月23日)

豊福先生

●豊福 晋平
(とよふく・しんぺい)

国際大学GLOCOM主任研究員・准教授。専門は教育工学・学校教育心理学・学校経営。近年は教育情報化 (学校広報・学校運営支援)、情報社会のデジタルネイティブ・リテラシーに関わる研究に従事。1995年より教育情報サイトi-learn.jpを運用、2003年より全日本小学校ホームページ大賞 (J-KIDS 大賞) の企画および実行委員。