★新教育コラム「学校マネジメント考」開始にあたって
管理職には、特に「学校マネジメント力」が必要であると言われるようになりました。ところが、愛される学校づくり研究会の中で「学校をマネジメントするとは具体的にどういうことか」ということを話題としましたが、お互いになかなか明確に示すことができませんでした。
そこで、それぞれが考える「学校マネジメントの具体例」をリレーで示しながら、考えを深めていくことにしました。皆さんからもご意見をいただきたいと思い、いわば研究会の内部資料ですが、その公開もかねて、この教育コラムを始めました。
学校マネジメント考【13】
― 一宮市立木曽川中学校校長 平林哲也
TDR(東京ディズニーリゾート)の集客力が、他の国内施設の追随を全く許さないのはなぜでしょうか。それは、TDRの運営理念が非常にシンプルで、明確であるからだと言われています。 |
さて、私は今年で校長職3校目、通算9年目です。
1校目は、学年2クラスの小規模小学校。2校目は、学年3クラスの中規模小学校。そして3校目の現在は、学年9クラス規模・生徒数1,000名を超える大規模校。
小・中学校の違い、学校規模の違いはあるものの、私の考えてきた学校マネジメントの基本はほとんど同じです。それは、児童生徒・教職員・保護者・地域に対して、シンプルかつ明確なターゲットを示すことだと思っています。どんな姿の学校にしたいのか、そのビジョンを描き、それをシンプルに表現することが管理職の役目だと考えます。
今年度、本校では、めざす学校のビジョンを「凡事徹底」・「参画」・「千人力」という3つのシンプルなキーワードで示し、学校マネジメントを進めています。この3つは、学校経営案に示すとともに、儀式や集会時の講話、学校行事、各種の便りや学校ホームページの記事などを通して生徒、教職員、保護者、地域に意識づけ、常にその実践化を図っています。 |
1 キーワード「凡事徹底」とは
「凡事徹底」とは、「当たり前のことを当たり前にやり遂げる」ことです。小牧市立小牧中学校の「ABCDの原則」(A=当たり前のことを、B=バカにしないで、C=ちゃんとやれる人が、D=できる人)と同じです。 |
このキーワードは、昨年度1年間で生徒・教職員・保護者・地域に浸透し、日々のあらゆる場面で行動を価値付けする言葉となっています。そのお陰で、生徒の生活姿勢や学習姿勢の改善が進み、標準学力テストや市内統一テストの結果からは、学力向上が顕著になったことが読み取れます。また、部活動における活躍も年々、結果に結びつくようになってきました。それが、生徒にとっても、教職員にとっても大きな励みとなっています。
2 キーワード「参画」とは
「参画」とは、自分の意思や意図を持って社会(学級、学年、所属する部活動、学校全体、地域社会、ひいては日本や世界)に参加しながら、自己実現を図ることです。「参画」によって、ただ社会に参加するのではなく、自分自身の行為が他の人の喜びにつながり、それが自分自身の喜びに転化していくことをめざしています。 |
例えば、生徒会担当者が生徒会活動として取り組んできた「ベルマーク収集」が近年、低調であることに目をつけ、「参画」という視点でとらえなおしてくれました。ベルマークは、ご承知のように集めた点数に応じて、学校の備品や消耗品に交換することができます。生徒が必要と感じなければ、収集意欲もわきません。しかし、集めたベルマークを東日本大震災の被害に遭った学校に送り、その学校に必要なものに交換してもらう方法に換えたとたん、生徒の収集意欲が高まっただけでなく、家庭や地域を巻き込んだ活動へと変わっていきました。まさしく「参画」を具体化する発想の転換でした。
また、自然教室や修学旅行などの学校行事でも、指導する教師の口から「参画」というキーワードがさかんに発せられるようになると同時に、実行委員になろうとする生徒が増え、実際に実行委員の経験を通して成長した生徒がたくさん出てきています。あるいは、教職員も学校経営への参画者の一人として自覚を持ち、自分の仕事を見つめ直すことによって、学校は今まで以上に活性化していきます。
さらに、「参画」を強く打ち出すことによって、地域からのボランティア要請の機会も増え、生徒が「参画」できる場面がこれまで以上に創出できるようになってきました。
3 キーワード「千人力」とは
生徒数1,000人を超える大規模校をまとめることは容易ではありません。 |
「凡事徹底」できる生徒が、「参画」意識を持って学校生活を送れば、その力はまさしく「千人力」として結実します。体育大会や合唱コンクールなどの大きな学校行事では、生徒も教職員も常に「千人力」の具現化を求めます。それが発揮できたとき、生徒・教職員の喜びとなるだけでなく、観ている保護者や地域の方々にとっても大きな感動につながります。それが、学校に対する大きな信頼を得るチャンスだと考えています。
4 究極の目標は「愛される学校」
私が求める学校の究極の姿は、生徒が「学びたくなる学校」、保護者・地域が「学ばせたくなる学校」、教職員が「働きたくなる学校」、つまり、すべての人に「愛される学校」です。そのためには、「信頼される学校」をつくらなければなりません。
キーワード「凡事徹底」・「参画」・「千人力」は、すべて「信頼される学校づくり」というターゲットに向けた合言葉です。
当たり前を当たり前として取り組み、落ち着いた生活ができる学校という基盤をつくる。その上に、社会集団への関わり方を学ばせていく。その結果として、個々の生徒に支えられた大きな集団としての学校が成り立てば、必ず信頼を得ることができます。
校長として重要なのは、最初に述べたTDRのように、どのような学校にしたいかというビジョンを明確にし、そこに到達するためのターゲットを示し、行動規準を分かりやすいキーワードにして生徒・教職員・保護者・地域に示すことです。
そのためには、学校ホームページなどを通した学校からの情報発信が不可欠です。学校、とりわけ校長がきちんと説明責任を果たすことで信頼の基盤がつくれます。そこに、生徒の日常行動の質的変化、学力の伸び、部活動の実績など、具体的な生徒の成長の姿が確認できれば、学校への信頼は強固なものになります。それを継続し、積み上げていくことで、「愛される学校」は実現できると確信しています。
※ 本稿は、これまでのリレー形式のスタイルは採りませんでしたのでご了解ください。 岡本薫氏の示されたマネジメントの流れ「(1)現状を把握する (2)原因を特定する (3)目標を設定する (4)手段を企画する (5)集団意思を決定する (6)手段を実施する (7)比較(評価)する」に従えば、(3)〜(5)に特化して記述しました。
(2013年8月12日)